弓削島で船をつくる

弓削島で船をつくる

Jan 01、2022Shoji Samuel Saito

こんにちは、船長のサムです。

僕の人生の中で、船と僕との物語が始まったのは僕が十代前半だったころ、家族で故郷のニュージーランドから引っ越し、タイに碇泊するワラム ”アイランダー55” に飛び乗ったそのときからです。勿論、それはそれまでとは全く違う生活の始まりでした。マラッカ海峡周辺を航海しながら、セーリングの楽しさや天候次第なペースや時間の感覚、そして自然界との繋がりについて知る事ができました。


とは言うものの、当時まだ十代の僕は便利でちょっとした贅沢のある都市での日常生活が恋しくなり、タイを出発してから二年後僕が17歳のとき、「二度と船では暮らさない」とまで明言し家族と別れ、大好きな音楽の道に進むべくニュージーランド国立オークランド大学へ入学しました。

しかし大学を卒業して地元ニュージーランドで仕事を探していた僕ですが、気が付くとまた海のそばでマリーナスタッフとして働いていました。一般的な船のメンテナンス方法やロープワーク、海事用語など、子供の頃に知らず知らずのうちに身についていた知識や技術が特別なものだったなんて、仕事に就くまで気づいていませんでした。

そうして僕がマリーナで船大工の見習いとして働いている間に、僕の家族はボルネオを過ぎ台湾を抜け、既に日本に定住していました。

2018年、多島美の美しい瀬戸内海の上島町に移住した家族を訪れた僕は、すぐに島民の皆さんの温かさに触れ、さらにセーリングにぴったりの穏やかな海や風景に感化され、僕も弓削島へ移住することを早速考え始めました。ここでなら、手作りの船で海に出るという僕のささやかな夢を叶えることができそうだと感じました。

船大工として働くうちにヨットデザイナーのジェームス・ワラム氏のデザインの簡潔さとメンテナンスの容易さの価値を理解し始め、ワラムデザインに魅了されていた僕は、自分の船にもワラム氏の設計図を選ぶことにしました。船体の曲線は島々の風景と調和していると思います。さらに、環境を意識し長持ちするデザインは、他のどの市販の設計案や材料よりも安心をもたらしてくれます。

しかし海外の多くの国々と比べて、日本で船を造ることは僕にとって簡単なことではありませんでした。なぜなら木材や接着剤も海外とは違う種類のものが多くあり、また日本はセイラーの数が極めて少ないために船具が高価だったからです。そんな条件の中でも僕がプロジェクトを続けていくことができたのは、ひとえに島の皆さんから助言や材料の提供をしていただいたおかげだと思っています。ジェームス・ワラム氏とハネケ・ブーン氏の細かく実践的な設計図も、制作の判断をする際にとても頼りになりました。



2019年から“Asanagi”の建造に取り掛かり翌年2020年に完成しました。“Yūnagi”は2021年前半に完成しました。

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